世帯年収1,400万円超のパワーカップル…「元銀行員の妻の偏見」で2,400万円を逃す大誤算
2022/09/16
https://gentosha-go.com/articles/-/45465
首都圏の新築マンション販売価格が「平成バブル」を超えるなかでも、分譲マンションの需要は堅調です。理由のひとつに、いわゆる夫婦共稼ぎの「パワーカップル」の存在があります。しかし、FP事務所ストラットの代表である伊豫田誠氏は、「勝ち組だと思われるパワーカップルでも、ちょっとした判断ミスで生活苦に陥るケースがある」といいます。それはどういうことか、2組の相談者の事例をみていきましょう。
◆ 不動産投資セミナーに来場した2組のパワーカップル
7年ほど前、似たような世帯状況の2組の夫婦が弊社の「不動産投資セミナー」に参加されました。
いずれも夫婦ともに大手企業に勤務していて、世帯年収1,400万円を超えるいわゆる「パワーカップル」です。A夫妻はともに銀行勤め、B夫妻はともに自動車関連企業に勤めていました。
A夫妻は旦那様が、B夫妻は奥様が不動産投資に関心を持ち、それぞれパートナーを連れてセミナーに参加されたようです。
両夫婦ともに、参加のきっかけは「子育てや家事が忙しくなり、奥様が退職して家庭に専念したいと考えるようになった」ことです。奥様が退職したあとも一定の収入を確保するため不動産投資を検討したところ、もし不動産を購入するなら在職中でないと融資を受けられなくなってしまうため、「退職前に不動産投資を勉強したい」と考えたそうです。
また、両夫婦とも奥様の退職を前に1,000万円を貯めていたことから、退職後の生活に大きな不安がないことも不動産投資に興味を抱いた要因の1つでした。
一通り不動産投資セミナーを聞き終え、2組とも後日個別で面談。
その結果、2組の夫婦はそれぞれ下記のとおり投資を始めました。
【旦那様が不動産投資に関心を持っていたA夫妻】
夫…ワンルームマンションを2軒購入
妻…購入せず
【奥様が不動産投資に関心を持っていたB夫妻】
夫…購入せず
妻…ワンルームマンションを2軒購入
それぞれに理由を尋ねると、A夫妻の旦那様は「いまは銀行融資が受けやすく、金利が低い時期に不動産投資を行うのは理に適っている」、奥様は「不動産投資で大きな融資を受けるのは心配」、B夫妻の奥様は「在職中に銀行融資を活用して、不動産投資でレバレッジ効果を得たい」、旦那様はA奥様と同様「不動産投資で大きな融資を受けるのは心配」との考えでした。
そして間もなくして、両夫婦の奥様は退職して家事に専念されたようです。世帯としてみると、2組とも2軒のワンルームマンションへ投資している同じような状況のパワーカップルですが、ここから大きな差が生まれるのです。
◆ 大きな差が生まれた2組のパワーカップル
2年後、B夫妻から「主人も不動産投資を始めたい」と連絡を受けました。以前奥様が購入した2軒の不動産投資が順調なため、「ぜひ自分も」との思いから相談に来られたそうです。
旦那様は変わらず自動車関連企業に勤務。2年で昇進しており収入も安定しているため、無事にローンの審査に通り、4軒のワンルームマンションを購入。世帯での合計は6軒となり、その後マイホームも購入できました。
その後、A夫妻も3軒目の投資用マンションの購入ができないかと、以前購入した旦那様が相談に来ました。
しかし、2軒目購入後にマイホームを買っていたこともあり、残念ながら3軒目の融資を得ることが叶わず。しかも、奥様はすでに退職しているため、奥様が購入することもできず、3軒目の不動産投資は実現しませんでした。
この結果、B夫妻は合計6軒のワンルームマンションで総額1億8,000万円の投資となり、A夫妻は合計2軒のワンルームマンションで総額6,000万円の投資となりました※。
※ 都内駅近、入居率98%のワンルームマンション1軒約3,000万円を参考としています。
◆ 7年後…A夫妻の「拭いきれない後悔」
7年が経過すると、2組の資産形成状況にはより大きな差が開いていました。
両夫婦とも3人の子宝に恵まれ、幸福ながら大忙しの暮らし。食費をはじめ、医療費、教育費、旅費、生活雑費など想像以上に出費が多く、共稼ぎのころとは違い貯金を増やしていくことができない状況です。
そんななか不動産市場は、2013年4月から続く日銀の異次元金融緩和とその後のマイナス金利政策、また近年の材料費の高騰などが影響し、不動産相場は7年前と比べて約20%も値上がりしています。
両夫婦の購入したワンルームマンションも例外ではなく、7年経過後の不動産価格は購入時の10%増となりました。いままでの融資返済も進んでいるため、含み益は20%ほどとなります。
つまり、両夫婦の現状はこうです。
・A夫妻……資産額6,000万円×20%=1,200万円の含み益
・B夫妻……資産額1億8,000万円×20%=3,600万円の含み益
貯金がなかなか増やせない子育て世帯。不動産価格の上昇によりどちらも資産は増加したものの、似たような状況にあった両世帯の差は「2,400万円」と大きく開いてしまいました。
◆ 「現金は安全で融資はリスク」はもう過去の話
今後も不動産価格が上昇していくとは限りませんが、現状の円安を容認している政府や日銀は、安定したインフレ(政府目標2%)が続くまでしばらく大規模な金融緩和を続ける方針です。
そんななか、毎年日本トップクラスの純利益(2~3兆円)を出すトヨタ自動車が、実は日本で1番有利子負債が大きいことはあまり知られていないのではないでしょうか。その額はなんと約26兆円です。
この低金利の状況下、融資を活用して先行投資などを行っているからこそ、順調に利益を上げていると考えられます。融資の負担も、インフレに比例して軽減していくからです。
不景気では稼ぎにくく貯蓄を増やしにくい状況だからこそ、企業や個人が融資を活用して資産を増やしていくことは至極当たり前となっています。
しかし、A夫妻は違ったようです。銀行に勤めていてもお金の知識に明るいとは限りません。
A夫妻の後悔の念は強く、奥様は「退職前にお金や経済についてもっと勉強しておけばよかった」と漏らします。銀行勤務の自分が、「融資はリスクが大きく金利の支払いは損」だなんて、本気で思っていたことが恥ずかしいと。
現金貯金・株式(投信)・外貨為替・保険・不動産など、近年将来のための資産形成手段は多様になってきました。そんななか、リスクを避けるつもりで現金貯金に頼りすぎると、インフレによって価値が下がれば反対にリスクを高める結果になりかねません。
偏った資産形成にならないためにも、中立的なファイナンシャルプランナーに相談することが重要です。
伊豫田 誠
FP事務所ストラット
代表/不動産投資専門ファイナンシャルプランナー